英語の多様な形

米倉綽・中村芳久(編)『英語学が語るもの』(くろしお出版)

くろしお出版から『英語学が語るもの』が出版されました。著者の方から献本をいただきました。ありがとうございます。本の紹介をさせていただきます。

英語についての多様なトピックを扱った本です。通時的視点から議論がなされている章と共時的視点から議論がなされている章があり、英語についてダイナミックな視点から考えてみたいという方にはお薦めの本です。

第3章の「ice creamは語か句か?-古英語と中英語における複合語」(米倉綽著)と第5章の「He don’t careの慎ましやかな訴えー否定縮約形のdon’tとdoesn’tの競合の歴史」(中村不二夫著)は、本ブログでも別のページで取り上げています。他にも歴史的な視点が中心的なテーマとなっているものには、第1章の「『大母音推移』は本当にあったのかー連鎖的音変化をめぐる諸問題」(服部義弘著)、第7章の「変幻自在なBE動詞の謎―文法化の視点から」(保坂道雄著)が含まれています。

各章が扱う内容も、音韻論、意味論、統語論、語彙論、文体論などさまざまです。章ごとに楽しむことができます。編者の米倉氏は英語史分野で、中村氏は認知言語学分野でご活躍なので、それぞれの分野の研究者のネットワークが十分に生かされた構成が実現したのだと思います。

目次は、以下のようになっています。

1 「大母音推移」は本当にあったのか:連鎖的母音変化をめぐる諸問題(服部義弘)/ 2 動詞の語強勢と形態構造:acclimateはどのように発音されるのだろうか?(山本武史)/ 3 ice creamは語か句か?:古英語と中英語における複合語(米倉綽)/ 4 なぜiceは動詞としても使えるのか?:現代英語における転換(長野明子)/ 5 He don’t careの慎ましやかな訴え:否定辞縮約形don’t とdoesn’t の競合の歴史(中村不二夫)/ 6 なぜGoldだけで「金メダル」?:省略と意味変化(前田満)/ 7 変幻自在なBE動詞の謎:文法化の視点から(保坂道雄)/ 8 Mary smiled a merry smile.は「陽気な微笑みを微笑んだ」?:同族目的語構文の特性と意味解釈(堀田優子)/ 9 some of the booksとsome of themは同じ意味か?:A of Bで表される部分・全体の関係の考察(田中秀毅)/ 10 I meanとI knowの使用の傾向と動機を探る:語用論からみた評言節(小林隆)/ 11 コロケーションとイディオムと認知:語と語の結びつきを探る(堀正広)/ 12 認知から言語をとらえる:超入門・認知言語学(中村芳久)

くろしお出版のページには、編者の紹介もあります。264ページ、2420円(税込み)です。

(2022年10月)