時代をつなぐ共通のテーマ

秋元実治(編)『近代英語における文法的・構文的変化』(開拓社、2023年)

秋元実治(編)『近代英語における文法的・構文的変化』が出版されました。献本をいただき、ありがとうございました。本の紹介をさせていただきます。

本書は7名の著者による共著です。それぞれの担当者が共通のテーマにしたがって異なる時代のコーパスを分析し、その研究結果が1冊の著書にまとめられたものです。扱う時代は、15世紀(片見彰夫)、16世紀(福元広二)、17世紀(田辺春美)、18世紀(山本史歩子)、19世紀(中山匡美)、20世紀(川端朋広)と近代英語期全般を網羅するとともに、中英語の終わりの部分も含まれています。最後に編者の秋元氏によるまとめの章がついています。

扱う内容は多岐にわたっていて、基本的には句動詞、仮定法、動詞の補文、進行形、methinks、動詞派生前置詞などが共通に扱われていますが、一部に各章ごとのアレンジもあります。それぞれの構文や文法現象が、近代英語期を通じて発達してきた過程を全体としてたどることができるようになっているところが本書の魅力だと感じます。methinksのように、現代ではほとんど使用されることのない現象については、このような本の組み立てが最初になされていなければ、後期近代英語の研究では研究対象となりにくいだけに、共通のテーマ設定が生きている感じがします。とはいえ、さすがに20世紀の章では、methinksは割愛されています。

動詞の補文のように、数百年の流れの中で大きく変化してきた現象についても、本書の組み立ては面白い研究成果につながっていると感じます。動詞がthat節を取るか、不定詞を取るか、-ing形を取るか、というのは英語の学習者としても関心のある話題です。一方で、多くの動詞が英語の歴史の中で、その補文の性質を変化させてきていることを考えると、この後も変化が起こる可能性がある流動的な分野であると感じます。全体としての傾向はあるものの、動詞によって変化のあり方が異なる傾向があるところも、この分野の研究の面白さです。一人の研究者が英語史の前時代を通じて調査を行うとなると、どうしても動詞の数を小さく限定せざるを得ません。その意味でも、このような形で共通の枠組みを持ちながら、異なる研究者が異なる時代を扱うことのメリットは大きいと言えるでしょう。

Voicy — 堀田隆一先生と著者との対談

本書については、英語史ブログのHellogで有名な堀田隆一先生も、何度もVoicyで著者との対談をされています。リンクを張ってみますので、聞いてみてください。