大学というシステム
苅谷剛彦著 『イギリスの大学・ニッポンの大学――カレッジ・チュートリアル・エリート教育』
個人的な話をすると、大学院時代を過ごしたスコットランドのセント・アンドルーズ大学が600年を迎え、今年の初めに日本での同窓会に参加したばかりでした。そんなこともあって、この本は、懐かしい情報満載でした。もちろん20年の間にイギリスの大学もずいぶん変わったところもあるのですが、ハイ・テーブルやチュートリアルなどは、今も健在のようです。(2013年)
以下は、引用です。
著者がイギリスに渡ったことについては、
「人の生き方の道行きには、あとからみれば、その収穫の見通しにかかわらず、何かを決断してしまう転機が訪れるときがある。私のそれは、何の前触れもなく4年前にやってきた。英国への転職話である」 (p. 13)
近年のイギリスの大学のグローバル化については、
「大学としても、優秀な学生たちを世界中から集める政策をとっている。教員の国際化である。全体でも4割の教員はイギリス以外の国籍であり、およそ100の国から教員を集めている。そして、世界中から集まった教員が、これまた世界中から集まる優秀な学生たちに、みっちり指導するのである」(p. 155)
目次
「グローバル化時代の大学論」シリーズ巻頭言
はじめに――オックスフォードにあって東大にないもの
第一部 大学異文化体験録
1章 ハイ・テーブルとガウン
2章 カレッジとチュートリアル
3章 授業・試験・成績評価
4章 エリートを育てるということ
第二部 現代イギリス大学改革の潮流
5章 財政難と大衆化――イギリス大学改革の背景
6章 学生たちが暴動を起こした理由――大学教育は誰のものか
7章 大衆化時代のオックスブリッジ
第三部 日本の大学改革のゆくえ
8章 「閉じた競争」――グローバル競争から隔絶された日本
終章 日本の大学に何ができるのか落とさない生活を!
あとがき
苅谷剛彦著 『アメリカの大学・ニッポンの大学――TA、シラバス、授業評価』(中公新書ラクレ、2012年)
本来はこちらの本の方がイギリスの大学についてのものよりも先に刊行されたようです。順番があとさきになりましたが、こちらも考えさせられることが多かったです。日本の大学教育改革については、「他国をまねる」という要素が多いと感じますが、各国の社会背景ということを考慮にいれないとたいへんなことになると感じました。(2013年)
以下は、TAについての記述からの引用です。
「しかしながら、ここでの小史が描き出したように、TA制度の誕生と発展は、教育の重視からではなく、それとは反対に研究の重視から生まれたものである。アメリカの口頭教育は、研究を重視するあまり、教育のために大学院生という安価な「研究者予備軍」を投入した。当の大学院生にとっても、TAで得られる授業料免除と金銭的な報酬とが大学院教育の継続を可能にした。ここに大学、教授、大学院生の三者の利害は一致をみる。しかし、この未熟な「研究者予備軍」の教育への利用は、大学教育の質の低下をもたらしてしまった」 (p. 71)
目次
「グローバル化時代の大学論」シリーズ巻頭言
新書版まえがき
はしがき
第一章 ティーチング・アシスタント制度にみる日米大学比較考
はじめに
1 ティーチング・アシスタントを通してみるアメリカの口頭教育
2 TAの仕事
3 TAによる大学の授業
4 TAの勤務形態と財政援助としての意味
5 TA小史
6 大学教師養成プログラムとしてのTA制度
7 日本の大学にTAは必要か
第二章 新米教師のアメリカ学級日記――もうひとつの日米教育比較考――
1 旅立ち
2 授業はじまる
3 「日本の教育」の読まれ方
4 ハイスクールと高校
第三章 シラバスと大学の授業、授業評価
第四章 高校から大学へ――高校間格差とトラッキングにみる入学者選抜の違い――
第五章 アメリカの大学からみた日本の大学教育
1 大学における学力問題――アメリカと日本との違い
2 コミュニケーション・スタイルの違いと大学の授業
第六章 漂流する日米の大学教育
あとがき
苅谷剛彦(著)『オックスフォードからの警鐘ーグローバル化時代の大学論』
本書も、前掲の二冊と同じく中公新書ラクレのシリーズのものです。近年の大学を取り巻く環境の変化を、少し距離をおいたところから眺めることを可能にしてくれる一冊です。