規範文法の影響力は?

受動進行形(progressive passive)

18世紀~19世紀の英文法が規範主義的であったことは各方面で古くから指摘されてきました。近年は、コーパス等により大量のデータの分析が可能となったことから、その影響力を量的に観察してみようとする研究が増えてきています。

Anderwald (2014) はそのような研究の一つで、例文も論文中で使用されているものを引用させていただくと、The bridge is being builtのような受動進行形が、規範文法の影響で減少することがあったのかを分析したものです。

このような進行形の応用ともいえる構文、受動進行形は、18世紀の終わりから見ることができますが、おおむね19世紀の発達とされています (Denison 1998: 150-152)。この研究の面白さは、19世紀の英米の規範文法書を調査し、まず実際に批判の対象になっているか、どのように批判されていかを分析し、その上で、実際に受動進行形の減少が見られるかを合わせて調査している点です。

その結果、受動進行形への批判はたしかに19世紀の文法書に見られますが、その批判の程度はアメリカの文法書の方が厳しく、また実際の言語調査でもアメリカ英語で明らかな受動進行形の減少が1950年頃に現れてくることがわかりました。しかし、さらに詳しく分析すると、その減少はnewspaperという特定のジャンルに限られているため、規範文法とはまた異なる要因が働いているのではないかという推論がなされています。

「影響」を議論するのはいつも大変難しいのですが、一定の説得力がある議論になっていると感じました。

このようや多様な調査を組み合わせる研究方法は、最初に述べたように近年とても盛んになってきていて、他にも、関係代名詞の前置詞残留を扱ったYáñez-Bouza (2015)なども、その代表と言えるでしょう。

参考文献表

  • Anderwald, Lieselotte. 2014. “Measuring the Success of Prescriptivism: Quantitative Grammaticography, Corpus Linguistics and the Progressive Passive”. English Language and Linguistics 18:1-21.
  • Denison, David. 1998. “Syntax”, in The Cambridge History of the English Language, IV: 1776-1997, ed. Suzanne Romaine, 92–329. Cambridge: Cambridge University Press.
  • Yáñez-Bouza, Nuria. 2015. Grammar, Rhetoric and Usage in English: Preposition Placement 1500-1900. Cambridge: Cambridge University Press.