西洋書物の歴史

高宮利行(著)『西洋書物史への扉』(岩波新書、2023年)

岩波新書から『西洋書物史への扉』が出版されました。著者は、この分野の第一人者として英文学関係者なら誰もが知る高宮利行氏。本の帯に書かれた「本を愛した人びと 本に愛された人びと」という言葉が本書の内容をそのまま物語っていると感じました。

新書ながら大変な情報量で、多数の写真が含まれているのも、書物の歴史をリアルに感じ取る助けになっています。本の歴史は、書き言葉を発達させた文化ではどこにでもある概念ですが、その本の形態により、異なる側面を見せることが、本書の記述からよくわかります。

取り分け印象的なのは、西洋における本というのがかなりの重量を有する場合が多かったこと、そのために書見台が重要な役割を果たしてきたという指摘です。また、書体の発達、その意図的な変更、写本の作成にかかわった写字生がどのような営みをしていたかなど、大変興味深い情報が提供される一冊になっています。

日本の場合、西洋の本に比べるとその重量はそれほど大きなものではなかったことは事実ですが、本が大変な容積になるのは、程度の差こそあれ、同様ではないかと思う面もあります。竹簡の時代ほどではありませんが、やはり、現在でも図書館は、いつもスペースの心配をしなければなりませんし、本を多数所有する個人も同様です。

これが今、デジタル書籍という新しい時代に変わろうとしてます。物理的な本が今後なくなる状況はにわかには想像できませんが、のちの時代から見れば、明らかに書物の歴史の転換点だったと言われる時代であることは間違いないでしょう。本書の終わり近くでは、デジタル書籍についての展望への言及もあります。(2023年)

ヴァーノン写本

オクスフォードの窓辺から第2回 Visiting Oxford Talk 2 (#42) 大きな本 ヴァーノン写本 The Vernon Manuscript — 高宮利行先生のYouTubeの動画の中に、『西洋書物への扉』の中でも取り上げられている巨大写本、ヴァーノン写本を紹介するものがあります。写本の画像も一部見ることができますし、この写本を見る場合にどのような状況が想定されるのか、といった具体的なイメージがよく伝わってくる動画となっています。写本のサイズ感に焦点を当てた動画です。ぜひ本と合わせてご覧ください。(9:29)