シェイクスピアと語彙の話
米倉綽(著)『シェイクスピアはどのような方法でことばをふやしたのか — 初期近代英語における語彙の意味と構造』
米倉綽(著)『シェイクスピアはどのような方法でことばをふやしたのか — 初期近代英語における語彙の意味と構造』(開拓社、2023年)が出版されました。献本をいただき、ありがとうございました。本の紹介をさせていただきます。
現在私たちが使用している英語の語彙の中でシェイクスピアによって初めて使用されたとされた語彙は、大変多いと言われています。このような語彙についての調査には Oxford English Dictionary (OED) を使用することが多く、OEDにおけるシェイクスピアからの引用例がそもそも多いという事実はあります。つまりシェイクスピア起源の語、というのは若干誇張されている可能性もあるわけです。しかし、その点を差し引いて考えても、シェイクスピアが一人の個人としては考えられないほどの量の新語を導入したことは事実のようで、シェイクスピアの言葉についての創造性を示していると言えるでしょう。
個人的には、これがシェイクスピア作品を少しばかり難解にしている理由だとも思えるのですが、シェイクスピアの語彙面での創造性は驚くべきものであり、これに正面から取り組んでみる価値は大いにあると考えます。
本書は、このようにシェイクスピアが作り出した語彙をいくつかのカテゴリーに分けて紹介します。これがそのまま本書の章立てになっていますので、順番に紹介することにしましょう。
第1章 マラプロピズムによる新語と新語義
第2章 外国語から借用された新語
第3章 地口による新語義
第4章 バイノミアルによる新語と新語義
第5章 脚韻、頭韻、韻律による新語
第6章 接頭辞および接尾辞付加による新語と新語義
第7章 転換による新語と新語義
第8章 複合語による新語と新語義
第6章から第8章の派生、転換、複合は、語形成の基本となる概念で、本書でもかなりの紙幅が割かれています。一方、前半は、語学研究の場ではそれぞれ取り上げられることの多いテーマですが、特定の作家の、しかも語彙の増加という視点から捉えなおしが行われている点が、なかなか面白いと思いました。
ちなみに、地口という日本語は少しわかりにくいですが、英語のpunと言えばピンとくるかもしれません。マラプロピズムは、「言葉に大いに関心のある話し手が、自らが持つ言葉の知識を越えると、その結果として誤用をすることになる。この誤用をマラプロピズム(malapropism)という。マラプロピズムとは、ある語をそれと似た発音の他の語と取り違えて用いることを意味する。」(p. 1)と説明されています。
本書では、シェイクスピアのみが使用した語に*がつけられています。*マークがついた語が多いのも、本書を読む中であらためて確認したところです。
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