図書館から本が消えることはあるのか

お金を扱わない銀行を見て考えたこと

チューリッヒの街は、これまでにも仕事で何度も歩いたことがあり、ヨーロッパの街の中では身近な街の一つです。コロナ後に久々に訪れてみて感じたのは、以前から進んでいたキャッシュレス化がいよいよ最終段階に至っているということです。これはヨーロッパの他の街でも同様だと感じています。基本的には、どこでも、どのような金額でもカード決済で完了します。

というわけでキャッシュレス化そのものは驚きでもなんでもなかったわけですが、ハッとと思ったのは、銀行にもお金がないという事実です。以前にスイスに行ったときの紙幣が手元に残っていたので持参したのですが、現地では新しい紙幣が導入されていて、旧札は街では受け取ってもらえなくなっていました。結構な金額の旧札が手元にあったので、銀行で交換をしてもらおうとしたところ、ほとんどの銀行の支店が現金を扱っていないことがわかりました。現金を扱う支店が集約されていて、いくつもの支店を周ってようやく現金の交換ができる場所にたどり着きました。

銀行といえばもともとは両替をする場所。しかし、現在は銀行が現金を扱わない場所と化しています。そこで考えてみました。もしかしたら、図書館も本の現物を扱わない場所になるかもしれない。もちろんすぐにという意味ではありません。しかし、図書の電子化はこれから加速度的に進んでいくものと想像できます。

海外の大学図書館では、電子図書の比率が飛躍的に伸びているように感じます。以前は授業で使用する図書はshort loanといって、短期間の貸し出しのみが許されていて、他の学生と譲り合いながら読むという習慣もありました。しかし現在では、こういう本はほとんど電子図書で揃えられていて、誰もが自由に読むことができるようになっています。

完全な電子図書館なら、スペースの心配もいりませんし、場所に縛られることもないので、ハブのようなものを作って、だれもが利用できる方向性を考えてよいのかもしれません。今のところ、従来の図書館がそれぞれに電子化を進めるという方向性が感じられますが、これを超えた図書館のシステムを構築するチャンスが到来しているように思います。銀行にお金を扱う支店とそうでない支店があるように、図書館も本を扱う図書館と本を扱わない図書館というものを想定してみると、できることの範囲が広がってくるかもしれません。(2024年)