川久ミュージアム

南紀白浜の奇跡の空間

南紀白浜の川久ホテルは、その1・2階部分がミュージアムになっています。桟橋のところでバスを降りて、道なりに少し進むと、スーパーマーケットなど日常的な風景が広がる中、突如としておとぎの国の中から出てきたような大きな建物が現れます。これが川久ホテルです。

正直なところ、最初はその姿にびっくりして、なんとなく周辺の風景と違和感があるようにも感じました。しかしながら、訪れてみてよかったです。大変多くの学びがありました。広い空間で展示品を楽しみながら歩いていると、海外からの訪問客もあり、どうやら関心をもっている人も少なくないようです。

ホテルのロビーがミュージアムになっているのだから無料でもよいという考えもあるかもしれませんが、ミュージアムとして入場料を取ってパンフレットを配付し、よく見てもらうほうがその良さを理解してもらうことにもつながります。発展性もあり、なかなか良い発想だと思います。ミュージアムだからこそ、宿泊客以外の人の目にもとまるという利点もあります。

フロアのモザイクや柱など、建物自体が展示品でもあり、実際にホテルで使用されていた衣装のような制服も、当時の宿泊客がどのようなもてなしを受けていたのか、想像力を掻き立てられます。また、先代のオーナーが収集したコレクションが主な展示品となっています。2階の回廊は版画を含む絵画が中心で、平山郁夫の仏像画などもあります。横山大観の作品も多数、コレクションの中に入っています。

ジョルジオ・チェルベルティによって描かれた壮大な天井画がある空間は、ゆっくり時間をかけてとって楽しみたい場所です。パンフレットの情報によれば、「愛と自由と平和」がテーマということです。天井画といえば、ヨーロッパの教会でよく目にする宗教画をイメージすることが多いですが、現代であれば、このような天井の使い方も可能なのだと、新たな気づきをもたらしてくれました。世の中がいろいろな意味で動揺している今日、「愛と自由と平和」は人々にとって重要なメッセージだとあらためて感じました。

1階にはミュージアムショップもあり、ホテルが建設されたときの職人の方々や建設に際しての苦労などを紹介するビデオも用意されています。ヨーロッパで技術を学び、その技術をまず日本の他の職人に伝えるところから始まり、準備ができた段階で建設にあたった職人の話など、ホテルそのものの歴史を知ると、ホテル・プロジェクトのスケールの大きさを知らされます。

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