変化の時代に

田坂広志著 『複雑系の知――21世紀に求められる7つの知』(講談社、1997年)

20世紀の終わりには、すでに創発の考え方が提唱されていました。出版されてから時間が経っていますが、著者の社会観がよく伝わる形で解説されていると思いました。印象に残ったところを引用してみます。(2012年)

「このことを考えるとき、まず留意すべきは、創発という言葉が『自動詞』であって『他動詞』ではないということである。すなわち、社会は自ら創発するものであって、我我は、社会を人為的に創発させることはできないのである。それゆえ、我々にできることは、社会が創発するための条件を整えることだけである。」(p. 85)

目次からも本書の内容が見えきますので、以下に掲載しておきます。

序章  複雑系の知とは?――複雑系としての社会に生きる智恵
第1章 社会の本質を知るにはどうすれば良いか?――ポエットの知
第2章 社会の現実を変えるにはどうすれば良いか?――インキュベータの知
第3章 社会の創発を促すにはどうすれば良いか?――ストリーテラーの知
第4章 社会の歴史に参加するにはどうすれば良いか?――アントレプレナーの知
第5章 社会の問題を解決するにはどうすれば良いか?――セラピストの知
第6章 社会の法則を活かすにはどうすれば良いか?――ゲームプレイヤーの知
第7章 社会の未来を知るにはどうすれば良いか?――アーティストの知
終章  いま、なぜ、複雑系なのか?――21世紀に求められる複雑系の知

田坂広志(著)『知性を磨く――「スーパージェネラリスト」の時代』(光文社新書、2014年)

田坂広志氏の本は、いつも言葉の定義がとても厳密だと感心します。あまりにも厳密なので、その内容を別の言葉で言い換えるのも躊躇するところです。とはいえ、本書では20世紀から21世紀という時代の転換期に生きる術がさまざまな角度から語られていると感じます。人との「縁」を生かしながら、しかし自らも成長のための努力を怠らず、そして成長によってまた新たな「縁」に恵まれたらその機会を生かしながら精進していく、そしてそれをひたすら続けていくことだと解釈しました。(2014年)

以下は、言葉の定義についての一例を引用したものです。

「『知能』とは、『答えの有る問い』に対して、早く正しい答えを見出す能力。/『知性』とは、『答えの無い問い』に対して、その問いを、問い続ける能力」(p. 15)

以下は本書の目次です。

第1話 なぜ、高学歴の人物が、深い知性を感じさせないのか?
第2話 「答えの無い問い」に溢れる人生
第3話 なぜ、「割り切り」たくなるのか?
第4話 「割り切り」ではない、迅速な意思決定
第5話 精神のエネルギーは、年齢とともに高まっていく
第6話 「固定観念」を捨てるだけで開花する能力
第7話 なぜ、博識が、知性とは関係無いのか?
第8話 頭の良い若者ほど、プロフェッショナルになれない理由
第9話 なぜ、優秀な専門家が、問題を解決できないのか?
第10話 「スーパージェネラリスト」とは、いかなる人材か?
第11話 「垂直統合の知性」を持つスーパージェネラリスト
第12話 スーパージェネラリストに求められる「7つの知性」
第13話 なぜ、経営者がスーパージェネラリストになれないのか?
第14話 「予測」できない未来を「予見」するには、どうすればよいのか?
第15話 なぜ、「目標」と「ビジョン」が混同されるのか?
第16話 「志」と「野心」は、何が違うのか?
第17話 なぜ、「戦略」とは「戦わない」ための思考なのか?
第18話 なぜ、優れたプロフェッショナルは、「想像力」が豊かなのか?
第19話 「知性」を磨くための「メタ知性」とは何か?
第20話 なぜ、古典を読んでも「人間力」が身につかないのか?
第21話 あなたは、どの「人格」で仕事をしているのか?
第22話 なぜ、多重人格のマネジメントで、多彩な才能が開花するのか?
第23話 なぜ、スーパージェネラリストの知性は、現場にあるのか?
第24話 なぜ、人類は、20世紀に問題を解決できなかったのか?
第25話 「21世紀の知性」とは、いかなる知性か?

田坂広志(著)『自分であり続けるために』(PHP研究所、2006年)

簡潔ですが、時代の変化に敏感な言葉に満ちています。厳密に定義されたキーワードがたくさん盛り込まれている中で、「プロフェッショナル」と「美」は本書全体を貫くテーマの1つだと感じます。以下の引用は、それをよく表しています。

「「美しい」と感じるか、否か。/ それは、/ プロフェッショナルが道を選ぶとき、/ ひそかに、心に抱く、/ たしかな基準なのです」(p. 15)

目次は少し長くなりますので、スラッシュをいれてつないだ価値でリストにしてみます。

自分のうちなる声
パリで画家が育つ理由 / たしかな基準 / 木を植える覚悟 / 二人の石切り職人 / 創造性という過ち / 生命を見失うとき / 自分だけにわかる目標 / 老化という迷信 / 天が与えた本当の才能 / 足に羽が生えるとき / 覚悟がもたらす運気 / 天才エジソンの努力 /「困難」という機会 / 制約の中の自己表現 / 最も厳しい観客 /「完全主義者」の本当の才能 /「一つ目国」の悲劇 /人生の分かれ道 /嫌悪感の正体 / 深く静かな「強さ」/「人生の成功」の定義 / ジェームス・ディーンの夢 / 夢を求めることの意味 / 挫折という配剤 / 人生の最後の日 / 山を越える修行僧 /「未来」に書かれたもの / ムカデの自意識 /「意欲」の新たな定義 /ノブリス・オブリージュの進化 /「ゆらぎ」の勇気 /「記録」と「記憶」の狭間 / 戦場写真家の心 / 奇跡の一瞬 / 本当の商品 / 上手な転び方 / 露地庭の石のごとく / 相性の意味 /「演技」と「対話」の心得 / 不幸な出会い / 答えのない問い / 直観は過たない / 静寂を待つ / 風景の余韻 / 不動心の本当の意味 / 青空を見る日 / 死を前にした「受容」/「希望」の新たな意味 / 三日間の視力
遠い彼方からの声

Kelly McGonigal(著)『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』(大和書房、2015年)

話題になっている本のようなので読んでみました。ストレスについての見方を変える本で、なかなか興味深いです。ストレスが体によくない影響を与えるのは、あくまで「ストレスは体によくないものだ」という思い込みがある場合であって、前向きに取り組めば、さらなる飛躍の原動力になるというのが、この著書の主張です。

他人への共感を通して成長する、という点について、以下のような一節もありました。

「どうやらわたしたちは、相手の苦しみに心を動かされない限り、相手の苦しみをとおして学び、成長することはないようです。相手のレジリエンスをただ傍観しているだけではなく、もっと踏み込んで、相手の苦しみにも強さにも心を打たれてこそ、わたしたちは学び、成長することができるのです」(p. 326)