語形成に関連すること

複合語 — Lexical Integrity

英語では、「名詞+名詞」の組み合わせで一つの概念を構成することが少なくありません。この場合に、「名詞+名詞」を全体として複合語と見るかどうかの判断が難しいことがあります。blackboardのように間にスペースを入れることなく一語として取り扱われている場合は複合語であることがわかりやすいのですが、間にスペースが入っていても、二つの語の結びつきが強い場合があるからです。そもそもスペースは写本時代には入ったり入らなかったりすることがあったもので、表記上の慣習にすぎない面があります。

米倉綽「ice creamは語か句か? — 古英語と中英語における複合語 –」(米倉綽・中村芳久(編)『英語学が語るもの』所収、くろしお出版、2018年)では、これを見分ける基準として、「語彙化」「強勢の型」「統語操作」「形態操作」の四つの概念が紹介されていますが、このうちの統語操作について見てみたいと思います。

米倉 (2018) の議論はAdams (1973: 57)を紹介する形で進められていますが、日本語での記述がわかりやすいので、これを引用させていただくことにします。

「・・・Adams (1973: 57) は small talk「世間話」と wet day「雨の日」をとりあげて次のように説明します。第1要素のsmallもwetもそれ自体は形容詞であるから副詞のveryでの修飾が可能です。しかし、very wet dayとはいえますがvery small talkとはいえません。また、wetを比較級にしてsmaller talkとすることは不可能です。この統語操作が複合語の内部構造におよばないのは、複合語の第1要素と第2要素の結びつきが強固であるためであり、Adamson (1992: 84)らは、これを「形態的緊密性」(Lexical Integrity) の原理とよんでいます。」(p. 45)

判断基準の一つとして、このLexical Integrityという概念を使ってみてください。

引用部でさらに言及されているAdams (1973) と Adamson (1992) の書誌情報は以下のようになります。

  • Adams, Valerie. 1973. An Introduction to Modern English Word-Formation. London: Longman.
  • Adamson, Stephen R. 1992. A-Morphous Morphology. Cambridge: Cambridge University Press.

動詞を作る接尾辞

現代英語では、動詞を形成する際に、conversionという操作が大活躍するように思います。他の品詞で使用されている語をそのまま動詞として使用することで、結果的に新たな動詞を生産したことになります。

Hans Petersの “The Old English Verbal Suffix –ettan” (Language and Text: Current Perspectives on English and Germanic Historical Linguistics and Philology, ed. Andrew James Johnston, Ferdinand von Mengden, and Stefan Thim, pp. 241-254, Heidelberg: Winter, 2006)を読んでいたところ、動詞を形成する接尾辞について興味深い文章がありました。基本的に、英語では動詞を形成する接尾辞がそれほど多くないというものです。以下に引用してみます。

“Generally speaking, there are (and always have been) comparatively few verb-forming suffixes. Koziol (1972) lists only five native verbal suffixes: –en, –er (< –rian), –le (< –lian), –sian, and –ettan. Of these, –ettan and –sian had no new formations after OE, most of the OE verbs becoming extinct (-sian: bletsian > bless, claensian > cleanse, glimpse, gasp, grasp). In contrast, –en (< nouns and adjectives in –(e)n + –ian) remains productive. It forms factitive or inchoative verbs mainly from adjectives (including comparatives and superlatives), more rarely from nouns.” (pp. 247-248)

ちなみに、この論文によれば-ettanは、古英語ではMicrofiche Concordance of Old Englishで200例ほど挙げられているような接尾辞ですが、現在ではgrunt (OE grunnettan)の1語のみが残っているとのことです。(p. 241)

最後に、引用の中で触れられているKoziol (1972)の書誌情報をあげておきます。

  • Koziol, Herbert. 1972. Handbuch der englischen Wortbildungslehre. 2nd ed. Heidelberg: Winter.