言語についての意識
Robert Lowth の手紙
Robert Lowth は、後期近代英語期の文法家の代表の一人としてあげられることが多いです。Ingrid Tiekn-Boon van Ostadeは、長年このLowthの研究に取り組み、文法書での記述と、実際に自分が英語を書くときでは、英語に違いが見られることを明らかにしてきました。Tieken-Boon van Osatade (2008) の “Letters as a Source for Reconstructing Social Networks: The Case of Robert Lowth” (in Studies in Late Modern English Correspondence: Methodology and Data, ed. Maria Dossena & Ingrid Tieken-Boon van Ostade, pp. 51-76, Peter Lang, Bern) では、Lowth の言語意識とスタイルの関係についてのコメントがあります。この点は社会言語学の研究ではよく語られるところです。そのあとに、書簡を受け取った人たちが Lowth が文法家であるために言語についての意識をしていた面があることが語られていて、この点は面白い視点だと思います。以下に関連箇所を引用してみます。(2022年)
”My analysis will show that though he was first and foremost a relatively ordinary, if educated, language user, Lowth was also, particularly at the time when he was engaged on his grammar, conscious of current notions of linguistic correctness. My analysis will demonstrate that his correspondents, too, were aware of the fact that the man they exchanged letters with happened to be a grammarian, and that they adapted their language accordingly.” (p. 53)
YouTubeのWikiReader
YouTubeのWikiReaderというチャンネルで、Robert Lowthについての紹介動画がありました。
Flat Adverbs
Tieken-Boon van Ostade が Morana Lukač と共著で発表した “Attitudes to Flat Adverbs and English Usage Advice” (2019) も人々の意識と言語変化の関係を考える上で興味深い論文です。
扱った内容は、go slow のように slowly ではなく、-lyがつかない副詞 (flat adverb) がどの程度利用されているかというものです。Mittins et al. (1970)の調査を新たなデータで再検証することで、20世紀後半以降に flat adverbについての人々の意識がどの程度変化したかを明らかにします。扱ったのは、go slow/slowly と quicker/ more quickly に限定されますが、近年、flat adverb が一般的に認められてきていることが示されています。どちらかといえば、男性が女性をリードする形で変化してきているようです。
この論文では、コーパスを使って flat adverb の使用状況を調査するとともに、いわゆる語法辞典の記述がどのように変化してきているかについての言及もあり、議論が多層的になっています。
なお、近年の現象として、thus に -ly を加えた thuslyの使用があることも指摘されていますが、こちらの方は、まだまだ人々の間でも十分に認められているとは言えないとのことです。
参照文献
Lukač, Morana and Ingrid Tieken-Boon van Ostade. 2019. “Attitudes to Flat Adverbs and English Usage Advice”, in Processes of Change: Studies in Late Modern and Present-day English, ed. Sandra Jansen and Lucia Siebers, 159–82. John Benjamins.
Mittins, William H., Mary Salu, Mary Edminson, and Sheila Coyne. 1970. Attitudes to English Usage. London: Oxford University Press.