イギリス英語とアメリカ英語

escalator, campus

C. Kay and K. Allan, English Historical Semantics (Edinburgh, 2015) のイギリス英語とアメリカ英語の語彙の違いに言及したところに面白い記述があります。

イギリス英語とアメリカ英語の語彙が異なることがある点は、さまざまな場面で指摘されるところですが、イギリス英語で特に適当な表現がなかったところ(gap) をアメリカ英語の語彙が補った場合の例として、以下が挙げられています。

“Other Americanisms have filled gaps in British English, for example escalator (formerly called a moving staircase) and a university campus (formerly not really called anything at all in the UK).” (p. 20)

古いイギリスの大学では、campusそのものが存在していない場合も多いので、campusの概念そのものがなかったと言った方がいいかもしれません。町に点在する建物が大学の建物になっている、大学の建物の隣には普通に人が住んでいる、いくつかの住居やお店を過ぎるとまた大学の建物がある、私が大学院時代を過ごしたSt Andrews大学も、そんな大学でした。

イギリス英語とアメリカ英語の綴り字

The Routledge Handbook of the English Writing System (ed. by Vivian Cook and Des Ryan, Routledge, 2016)所収のD. W. Cummingsの論考、”The Evolution of British and American spelling” (pp. 275-292)では、イギリス英語の綴り字とアメリカ英語の綴り字の違いがどのように確立してきたかがわかりやすく解説されています。どちらの綴り字かを二分法で考えるのは必ずしもその歴史を正しく反映しているとはいえず、イギリス英語の綴り字もアメリカ英語の綴り字も、変化の過程を経て今日の形にほぼ落ち着いていることがわかります。

アメリカ英語の綴り字に多大な影響を与えたNoah Websterについては、その1789年の著作に言及して、綴り字改革では”1 They would make learning to spell and read easier; 2 The would make American pronunciation more uniform; 3 They would make books shorter and thus less expensive; 4 They would distinguish American spelling from British, which would encourage the publication of Books in America and strengthen American copyright laws” (Cummings, p. 279)といったことが意図されていたと指摘しています。

イギリス英語とアメリカ英語の否定構文

イギリス英語とアメリカ英語の否定構文にはさまざまな差異があると言われています。もっともよく言及されるのは、語彙動詞としてのhaveの否定で、アメリカ英語で助動詞doを使用して … don’t have … とするところで、イギリス英語ではdoを使用せずにそのままhaveをnotで否定することがあるという点です。しかし、少し歴史をさかのぼって18世紀、19世紀のアメリカ英語を分析すると、アメリカ英語でもdoを使用しない否定構文が想像以上に広く使用されていることがあることに気づきます。最近出版した Iyeiri and Fukunaga (2023) では、この点についてもかなりの紙幅をさいて記述していますので、参考にしてみてください。英語版の私のサイトにも紹介ページを設けています。

参照文献

Iyeiri, Yoko and Mariko Fukunaga. 2023. “A Corpus-based Analysis of Negation in Selected 19th-century American Missionary Documents in Honolulu”, in Language and Linguistics in a Complex World, ed. Beatrix Busse, Nina Dumrukcic, and Ingo Kleiber, pp. 133-151. Berlin: De Gruyter.