語用論の基本的な概念
Paul Griceの強調の原理
近年、歴史言語学において、歴史語用論や歴史社会言語学の手法が頻繁に導入されるようになってきました。この際の歴史語用論や歴史社会言語学は、互いに関連性の高い、場合によっては共通の基盤に立つ研究分野として扱われることが少なくありません。しかし、歴史的な文献に適用される以前の語用論や社会言語学といった分野は、互いに異なる方法論を持つ二つの分野だったと見た方がよいと感じます。前者は哲学的な観察を通して場面に密着した分析手法を取ることが多く、後者は個別の事象を少し離れたところから観察しながら、どちらかと言えば統計的な手法によって全体像を明らかにしていくという側面があります。
ここでは語用論で使用されてきた基本的な考え方の一つとしてPaul Grice (1913-1988) の強調の原理(cooperative principle)を紹介したいと思います。会話が成立するためには会話の参与者が協力しながら話をいく必要があり、質・量・関係・様態について適切であることが求められるという点を簡潔な言葉でまとめたものです。
P. GriceのStudies in the Way of Wordsが出版されたのが1989年であることからもわかるように、現在では、すでに古典的となった研究成果です。とはいえ、その指摘するところはほとんどそのまま現在の会話にも適用可能です。
慶応大学の堀田隆一先生のブログhellogにも関連の概念をまとめたページ「#4869. 協調の原理と会話の含意」がありますので、ご覧ください。堀田先生自身がheldioでも解説を加えておられます。