規範主義の時代 — Lindley Murray, Eliza Haywood

Lindley Murray

規範文法家の一人としてよく知られているLindley Murrayについての研究を概観するのには、Tieken-Boon van Ostade (1996)がお勧めです。Lindley Murrayの文法がどれほど版を重ねて、どれほど世界中で広く読まれたのかに始まり、その後、どのように研究されてきたのか、さらにどのような研究が今後なされるべきか、について詳しく述べられています。

先行研究に言及する形で議論が進みますので、必然的に、どのような研究がこれまでなされてきたかについてもある程度把握することができるようになっています。

Murrayの文法の日本での受容についても触れられています。Reibelの研究に言及しながら、Charlotte BronteがMurrayの文法を所有していたこと、少なくともCharlotte Bronteの友人であるMary TaylorがMurrayの文法に言及していることなども紹介されています。

参照文献

Tieken-Boon van Ostade, Ingrid. 1996. “Lindley Murray and the Concept of Plagiarism”, in Two Hundred Years of Lindley Murray, ed. Ingrid Tieken-Boon van Ostade, pp. 81-96. Muenster: Nodus.

The Female Spectatorの英語

18世紀は英語の歴史の中では、規範主義の時代として扱われることが多い。このため18世紀を対象とした英語史研究の多くが規範文法書に触れることになる。というよりも、規範文法書そのものを研究の対象にすることが、ある意味で常道となってきた。

一方で、この時代に生きた人々の実際の英語がどのようであったかというのも大変興味深い問いである。実際の英語の実態を明らかにすることで、規範文法がどの程度言語使用者の英語に影響を与えていたかを推測することは興味深い視点だからである。

後期近代英語期の英語は比較的普通に読めるため、伝統的な英語史の中では特別に取り上げることが少なかったものの、近年は上記のような理由から注目が集まっている領域でもある。出版物も多い。また規範文法書を書いた著者のものも含めて、残されている書簡等の資料も多い。

このような中でも取り上げられるのは、次の19世紀に比べれば、まだまだ圧倒的に男性著者によるものが多いと感じる。一方で、18世紀も少し視野を広げてみると、女性の著者の英語の研究も十分に可能な時代である。The Female Spectatorは恰好の資料の一つで、Eliza Haywoodが1744年から1746年にかけて出版したことで知られている。山本 (2017) はこれを資料に関係代名詞の使用実態を調べ、同時代の男性著者たちと比較した。Haywoodが女性著者を代表しているかどうかは別として、ゼロ関係詞の使用が多いなど、大変興味深い結果が紹介されている。論文の中では、助動詞doの拡張度合いなどを調べたWright (1994) など、先行研究にも言及がある。

参照文献

Wright, Susan. 1994. “The Critic and Grammars: Joseph Addison and the Prescriptivists”, in Towards a Standard English 1600-1800, ed. D. Stein & I. Tieken-Boon van Ostade, pp. 243-84. Berlin: Mouton de Gruyter.
山本史歩子. 2017. 「The Female Spectatorの英語 — 関係代名詞を中心に –」『近代英語研究』 33: 51-83.