コーパスに見るジェンダー
LOBとBrownを利用した古典的研究
コーパスを利用してジェンダーバイアスを調べる研究の古典的な例として、Kjellmer (1986) を挙げることができるでしょう。1986年と言えば、英語の史的コーパスの最初期のものとされるHelsinki Corpusもまだ完成していない時代です。その意味で、この時すでに完成していたLOBとBrownを使用した本研究は、かなり最先端のものであったと考えられます。この時代を思い浮かべてみると、まだコンピュータを所有している人がほとんどいなかった時代です。
本題に戻ります。Kejllmer (1986) は、LOBとBrownを利用して、イギリス英語とアメリカ英語の実際の使用の中に、どれほどジェンダーバイアスを見ることができるかを人称代名詞の頻度をもとに分析します。he, him, his, himself, she, her, hers, herselfがどのような頻度で現れるかで、男性、女性のrepresentationに違いがあるかをある程度推定することができるという仮説に基づいた検証です。
結果として、どちらのコーパスでも、she, herの頻度がかなり低いことがわかり、特にアメリカ英語で女性が話題になる頻度が低いという結果が出ています。またLOB、Brownのジャンル分けを使用し、どのジャンルにおいて英米の違いがみられるかにも言及しています。特に、イギリス英語の方で女性が話題になる傾向がアメリカ英語よりも大きいと思われるのは、H (miscellaneous), K (General Fiction), E (Skills and Hobbies) とのことです。Hはmiscellaneousといいながら、実際にはGovernment reports, Parliamentary debates, Presidential speechesなどが多く含まれている点に、注意が必要です。
このあと、分析は主格のhe, sheと目的格のhim, herの差異について深められます。主格で使用されている代名詞が多い方が主体的であり、目的格で使用されていることが多ければ受動的な扱いになっているという仮説に基づく分析です。興味深いことに、主格:目的格の比率については、特に気になるほどの男女差は見られないという結果が出ています。この点は、イギリス英語においてもアメリカ英語においても同様とのことです。
現在は、どのようになっているでしょうか。
引用文献
Kjellmer, G. 1986. “‘The lesser man’: Observations on the Role of Women in Modern English Writings”, in Corpus Linguistics II : Hew Studies in the Analysis and Exploitation of Computer Corpora, ed. Aarts & Meijs, pp. 163-176. Amsterdam: Rodopi.