文法化 — 日本語と近隣言語

ナロックハイコ・青木博史(編)『日本語と近隣言語における文法化』(ひつじ書房、2023年)

ひつじ研究叢書<言語編>の第196巻として、ナロックハイコ・青木博史(編)『日本語と近隣言語における文法化』(ひつじ書房、2023年)が出版されました。献本をいただき、ありがとうございました。本の紹介をさせていただきます。

まず、196巻という巻数を重ねてきたシリーズにもエールです。本書が扱う内容は、言語研究者なら誰でも直接的、間接的にかかわっている文法化で、本書では議論の対象となるのが、日本語とその近隣言語となっています。1990年代頃から、急速に研究者の関心を集めている文法化ではありますが、やはり英語を中心としたヨーロッパの言語が事例を提供する場合が多い状況にあって、大変重要な意味を持つ論文集の出版だと思います。

収録の論文の中からいくつかを紹介すると、格助詞の「より」から副詞の「より」が派生した経緯を明らかにする「言語接触と文法化について — 近現代日本語の「より」構文を事例として」(柴﨑礼士郎著)では、「より正確な」のような副詞の使い方の拡がり、そして「より一層」のようなコロケーションの確立に焦点が当てられています。

「漢語「正直」の機能・用法の拡張」(東泉裕子・高橋圭子著)では、「正直辛いんだよ」のような正直の副詞用法がどのように生じて確立してきたかが、日本語史全体という長い時間軸の中で議論されています。

いずれも日常の日本語の中で現在では普通に使用している表現ですが、その歴史の面白さをあらためて感じました。

「琉球諸語における双数形 — 類型と歴史」(下地理則著)では、「二人」を表す双数が琉球諸語の中でどのように分布しているかを詳しく議論しています。英語の歴史を見るときには古英語(と中英語)に少しだけ出てくる双数を扱うことになりますが、数を問題にすることが多い英語でありながら、さすがにこの双数は歴史の早い段階で退散します。それが、こんなに身近なところに分布しているというのも大変新鮮に感じました。