英語の多様な形

大石晴美(編)『World Englishes入門 — グローバルな英語世界への招待』(昭和堂、2023年)

AIや翻訳アプリの性能が飛躍的に向上したことで、ようやく言語の壁が取り払われる時代が到来したと感じます。このような時代の変化を受けて、人々の英語感も、これまでの時代とは全く異なったものとなってきています。

何よりも、特定の英語を基準とした上から目線の英語教育に、人々が抵抗を感じるようになってきたことが大きいと思います。世界英語の考え方は、現在ではかなり定着したものとなっていますが、本書は英米以外の英語について、かなり詳しく、また新しい情報を与えてくれていると感じます。複数著者により著書なので、その分、異なる地域への気配りが、それぞれに行き届いているという印象です。

日本の英語、韓国の英語、中華世界の英語など、地理的に日本に近いところでの英語にも焦点が当てられていますし、モンゴルの英語、ミャンマーの英語も新鮮でした。World Englishesというときに取り上げられることの多かったインドの英語、カリブ海の英語などに加えて、新たな視点を導入する気配りを感じます。

アメリカ英語については、そののアイデンティティについて興味深い記述がありますので、以下に引用してみます。

アメリカ英語に対しては20世紀の初めになってもまだ偏見が残っていたが、第一次世界大戦終結後の1919年になると、ジャーナリストであったメンケン (H. L. Mencken) が『アメリカ語』(The American language)を出版し、「アメリカ語」 (American Language) という言い方でアメリカ英語について主張した。しかし、そのなかでメンケンは、まだ「アメリカ英語」 (American English) という表現は使っていない。1925年になると、コロンビア大学のクラップ教授 (G. P. Krapp) が、著書『アメリカにおける英語』 (English Language in America) のなかで、「アメリカ英語」という表現を多くもちいているが、まだ著書のタイトルに使うまでには至っていない。(p. 40)

最後になりましたが、著者のお一人から献本をいただきました。ありがとうございました。