出光佐三資料館
出光美術館の1階にある資料室(博物館)
出光佐三が人生の後半に美術品のコレクターでもあったことはよく知られていて、出光美術館といえば、東京丸の内の出光美術館が有名だと思います。実は、北九州の門司港にも出光美術館門司があります。現在は九州の玄関口が新幹線なら小倉、飛行機なら福岡になってしまった印象があるので、なかなか門司港にでかける機会も少なくなりました。実際門司港を訪れるためには、小倉での乗り換えが必要です。
しかし、関門海峡は壇之浦にはいにしえからの歴史もあり、また日本の近代化に果たした役割もの大きいので、数々の歴史的建造物、有名な神社などが集中している地域です。アインシュタインが宿泊した旧門司三井倶楽部など、見所が多い場所なので、一日ゆっくりと過ごしてみてもよいかと思います。門司港の駅舎自体も重要文化財に指定されています。駅舎内のスターバックス(下の写真)もなんとなくレトロな雰囲気。
出光美術館門司にもどって、今回の訪問では、2階でまず特別展の「富岡鉄斎―最後の文人」を見ました。収蔵された美術品のみでさまざまな特別展を展開できるわけですから、コレクションの大きさと幅の広さを感じます。ちなみに、次のコレクションは「ジョルジュ・ルオー-内なる光を求めて」(2024年9月6日から11月4日)の予定とのことです。
多くの美術館では特別点をするたびに美術品を借り出す作業が必要になりますので、結果的にやや高額な入場料が必要になり、それに見合う展覧会となると大規模なものにせざるをえないという傾向があります。これはこれで素晴らしいのですが、出光美術館のように手持ちのコレクションの中からコンパクトで比較的安い入場料で見ることができる特別展を作り続けることができると、美術館が身近になり、生活の一部になっていくように思います。鉄斎の絵を見た後は、3階に上がって、「出光佐三とそのコレクション」を見ました。中国や日本のさまざまな時代の陶磁器が展示されていました。上品な茶器の美しさを堪能しました。
というように美術部門もすばらしかったのですが、実は出光美術館門司を訪問した理由は、美術館の1階にある出光佐三資料館に関心があったからです。以前に『海賊と呼ばれた男』(上・下)を読んで、この人物の生きざまに注目していたからです。(ただし、伝記というよりは小説なので、事実と異なる面があるとの指摘はあるようです。)赤間の出身で、福岡と神戸で学び、門司港で出光商会の旗揚げをしたことなど、その人生の拠点のいくつかが自分の動線と重なり、なんとなく共感の目で見てきたこともあります。親戚の方が実家の近くに住んでおられたこともありました。
資料館内の展示品は油に関するものが多く、この分野に関心がなければあっという間に見終わるぐらいのスペースではあります。しかし、音声の解説やビデオなども見ながらゆっくりと時間を過ごすと、大正から昭和の時代に生きた人々の力強さが伝わってきます。人生の後半期に美術のコレクションに財を費やすことができたのも、この人生の前半期の生き方があったからだと納得します。そしてそのコレクションを今、私たちが見ることができるわけですから、人生が終わってもなお、その社会的貢献には著しいものがあると思いました。美術館内をめぐる時間は、出光佐三が美術の愛好家であってよかったと感じる瞬間でもあります。
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