省略について — 主語の省略、コピュラbeの省略
中英語における主語の省略
主語の省略は現代英語でも普通に起こる一般的な現象ですが、中英語の場合、省略できる幅が現代英語よりも少し広めなので、注意が必要になることもあります。基本的には、コンテキストから主語が特定できる場合、あるいは動詞の語尾から特定できる場合には、幅広く主語の省略の可能性があると考えてよさそうです。
少し古い論文ですが、Urban Ohlanderの”Notes on the Non-Expression of the Subject-Pronoun in Middle English” (Studia Neophilological 53 (1981): 37-49)に、さまざまなケースがまとめられています。たとえば、与格になっているものが後の文の主語になる場合に省略のケースについては、
“Of a special type are cases where the dative in the earlier clause — with an intransitive verb — represents the psychological subject that is in thought carried over to the later clause, e.g. Hym wantes sight (‘He wants sight’), als i said yow. And cald on his son esau. CM 3598.” (p. 41)
と述べられています。
一方で、現代英語では命令文の主語は強調の場合は現れないのが普通ですが、これに関しては中英語では表記されている場合が多いように感じます。この点に関して、Ohlander (1981)は古英語と比較する形で、
“In ME, where the singular and the plural forms of the imperative often coincided, the need for clarity could make the expression of the subject desirable.” (p. 37)
と述べて、T. Mustanoja, Middle English Syntax (1960) 等を参照しています。今日は二人称代名詞が単数も複数も同じ形をしていますので、この区別がまた必要なくなってきたのかもしれません。
AAVEにおけるコピュラbeの省略
William LaboveのAfrican American Vernacular English (= AAVE) におけるbe動詞の省略についての論文(”Contraction, Deletion, and Inherent Variability of the English Copula”, Language 45 (1969): 715-62)の面白さは、AAVEでコピュラbeが省略できる場所といわゆる標準英語でcontractionが起こる場所が一致している点を指摘したところにあります。後半の理論的枠組みはひとまず置いておいて、前半の事実の提示の部分だけを読んでみても、参考になる点が多いはずです。例のいくつかを引用すると、
Standard English AAVE
*Here I’m. *Here I.
*What’s it? *What it?
What’s it for? What it for?
*He’s now. *He now.
He’s unfortunately here. He unfortunately here. (p. 722)