コーパス時代の英語学 — 齊藤・他、深谷・滝沢
齊藤 俊雄・赤野 一郎・中村 純作 (編) 『英語コーパス言語学―基礎と実践』(研究社)
コーパス言語学の入門書はたくさんありますが、この本は必読書の一冊です。改訂新版になっています。初版も合わせて読むと、より深く理解できます。コーパス言語学の歴史はそれほど長くないので、全体を一通りおさえておくのがよいと思います。
本著書は、3部構成です。第1部が基礎編で、ここではコーパス言語学とは何か、そしてコーパスの検索の方法や編纂についても詳し記述がなされています。第2部は実践編で、コーパスを利用した具体的な英語学研究が示されています。最後に第3部は関連分野となっていて、狭義のコーパスにはあてはまらないけれどもコーパス言語学の手法を応用して研究に利用できるインターネットや辞書の活用の例が紹介されています。現在では、この分野もコーパス言語学の一分野として普通に応用されているようになってきていますので、重要な情報を見逃さないように、最後まで読むことをお勧めいたします。
巻末にある主要コーパスのリストとその解説も大変有用です。
深谷輝彦・滝沢直宏編『コーパスと英文法・語法』(ひつじ書房、2015年)
ひつじ書房の英語コーパス研究シリーズの第4巻として出版された論文集です。現代英語のより深い理解にお役立てください。コーパスを利用した言語分析の方法もたくさん学ぶことができます。
章立ては、以下のようになっています。
1. コーパスに基づく英文法・語法研究(深谷輝彦)
2. コーパスを用いた英語語法文法の研究 その方法を中心に(滝沢直宏)
3. 複合語の分析 限定用法の複合形容詞の場合(西部真由美)
4. コーパスとフレイジオロジー(八木克正)
5. アメリカ英語における曜日と日付の副詞的名詞句 その分布と変化(山﨑聡)
6. BNCに基づく繰り上げ主語受動態構造の分析(新井洋一)
7. コーパスと語彙意味論研究 加熱調理動詞の使役交替性(都築雅子)
8. 優先規則体系とコーパス(大室剛志)
9. いわゆる転移修飾表現再考(金澤俊吾)
10. 大規模コーパスによるコミュニケーション的視点からの受動形の分析(梅咲敦子)
ひつじ書房の同じシリーズの第6巻には、『コーパスと英語史』(西村秀夫編)もあります。こちらもあわせてご利用ください。
滝沢直宏(著)『ことばの実際2 コーパスと英文法』(研究社、2017年)
コーパスを利用した英文法研究の方法論を詳しく解説しながら、特に副詞を中心に、具体的な研究事例にも踏み込んだ著書となっています。前半部分は、必要とする例文を抽出するための正規表現の記述方法にかなりの重点が置かれています。中盤にあるMI-scoreとt-scoreの意味とその解釈の方法についての説明は大変わかりやすいので一読をお勧めします。この種の統計量は、近年は自動的に算出することが可能な一方、有効な利用のためには、その意味を適切に理解していることが重要だと思われます。その意味で、本書の解説は大変ありがたいです。
-ly副詞についての分析もわかりやすく、どのような統語環境で、どのような-ly副詞が使用されるか、どのようなコロケーションが頻繁に見られるかなど、文法についての考察もなかなか興味深い内容となっています。後半では、動詞が末尾にくるSOV構文など、少し珍しい文法現象についての調査結果も示されています。現代英語をさまざまな角度から掘り下げてみたいという方には、現代英文法研究の方法を学ぶ上でも有効な著書だと思います。(2023年)