コトバの世界への導き

大津由紀雄(著)、早乙女民(イラスト)『ことばに魅せられて — 対話篇』(ひつじ書房、2008年)

たいへん面白く、どんどん読み進みました。NHK基礎英語3のテキスト(2003年4月号~2005年3月号)に連載された「ことばの世界を旅しよう」「続・ことばの世界を旅しよう」がもとになった著書です。薫さん、心之助君、言さんの3人だけの劇団を想定し、薫さんと心之助が言さんから言語学の導入部分の手ほどきを受けるという設定になっています。イラストを追いながら、3人のやり取りの展開を通じて言語の本質に少しずつ触れていくことになりますので、楽しみながらの学びとなります。

人間と動物の違いをコトバという観点からどのように見るか、人間の脳と言語の関係、同じ言語でも英語と日本語ではどのような点が共通でどのような点が異なっているのか、など言語をめぐる多様な問題をわかりやすく理解できる仕組みになっています。たとえばバイリンガルについては、以下のような記述もありました。

言:それがね、完璧なバイリンガルと思えたこの人たちも、じつは英語優勢かフランス語優勢のどちらかになることがわかった。英語優勢の人は英語を聞いたときも、フランス語を聞いたときも、いずれも英語であるかのように脳が働く。逆に、フランス語優勢の人はフランス語を聞いたときも、英語を聞いたときも、どちらもフランス語であるかのように脳が働く。(p. 61)

言語について語る言さんにはユーモアのセンスもあります。また登場人物3名が生き生きとしていて読者の共感を誘うのには、早乙女氏の魅力的なイラストの力もあると思いました。(2023年)

西山佑司・杉岡洋子(編)『ことばの科学』(開拓社、2017年)

本書は東京言語研究所開設50周年記念セミナー(2016年9月)での報告をもとに編纂されたものです。全体が2部構成になっていて、第1部は、初日の公開シンポジウム「日本語はどのような言語か — 内から見た日本語、外から見た日本語」での講演内容を中心に、第2部は2日目のリレー講演「ことばの科学 — 将来への課題」をもとに編纂されたものです。

全体を通して日本語が中心になっていて、基本的な概念もわかりやすく解説されていますので、日本語が専門でない場合でも、各章ごとに知識を深めながら、納得しながら読み進めることができると思います。

まえがき部分で解説されている東京言語研究所開設の経緯も一読の価値があります。服部四郎教授の構想から始まり、1966年3月に開設されたときの様子が説明されています。(2023年)