図書館の心遣い
グロスター — Gloucester Cathedral Library
印刷技術が導入されるまでの本は、一点一点手で転写する方法で作成された写本でしたので、大変高価なものでした。転写の作業が修道院で行われることも多かったこと、文字を読める人達が教会の中に多かったことなどもあり、大聖堂が図書館を有していることも少なくありません。イギリスのグロスター大聖堂にも図書館があり、貴重な中世写本を所有しています。2019年にその写本を見せてもらうためにグロスターに出かけたときに、図書館の心遣いにとても感心したことがありましたので、書いてみたいと思います。
海外への調査旅行には航空券の手配などもありますので、2月頃に連絡をして、訪問の予定をたてました。実際に訪問をすることにしていたのは6月です。ところが5月に再度確認のためのメールを送ると、状況が変わって、私が訪問する予定にしていた週に、大聖堂の図書館が閉館になるとのことです。これで予定を変更しなければならないかと思ったのですが、何と同じグロスターの街にあるHeritage Hubのアーカイブのセクションに、当該の写本を貸し出しておくので、Heritage Hubで調査をするように、との連絡です。
写本は通常は、その写本を所有している図書館の中だけで見ることができるようになっていて、貸し出しの対象になることはないものだと思っていました。もちろん展覧会などのための貸し出しはあると思いますが。大変ありがたい配慮をしていただいたと思っています。グロスター大聖堂の図書館を使うことができなかったのは残念でしたが、Heritage Hubの中で、見たいと思っていた写本の調査を終えることができました。写本を扱う際には、とにかくライブラリアンとの事前の連絡が大切です。この時は、特にその重要性を再確認した次第です。
ちなみにグロスター大聖堂の図書館は閉館でしたが、大聖堂そのものは普通に開いていましたので、滞在の期間中に見学することができました。とても見どころの多い大聖堂です。グロスターの町自体は短時間で歩いて周ることができるコンパクトなサイズですが、大聖堂は大変大きな作りで、圧巻です。YouTubeでも詳しく紹介されているビデオを見つけることができます。以下のものは、そんなビデオの一つです。大聖堂の中に異なる時代の建築様式が共存している様子がよくわかるビデオになっています。