語順についての観察

英語の語順 ー too good a film のような言い方

現代英語は語順のルールがかなり重要だと言われます。英語史的には、古英語は語尾変化が複雑な言語でしたから、文法機能の多くを語尾が担っていましたが、時代の経過とともにこの語尾が脱落してきたために、文法関係を語順で表す部分が大きくなってきたということが定番の説明になります。

もう少し具体的に言うと、古英語ではたとえば名詞が現在のドイツ語のように格変化をしていて、名詞の形を見ることで、その名詞が主語なのか目的語なのか、という判断が多くの場合に可能であったということです。(実際には、主語と直接目的語の形が共通の場合も多いですから、あくまで全体としての概念で捉えることにしましょう。)現在は、文中の要素を特にきわだたせる必要がなければ、一般的に文の最初に主語を置く、つまり語順によって文法機能を判断していることになります。

ここまでは英語の語順についての前置きです。今回、英語の語順について取り上げてみたいのは、too good a film のような形容詞を冠詞よりも前に置く、少し変わった英語の語順です。

この語順に関係する研究で、Seppaenen, Aimo, Solveig Granath, and Lars Danielson (2002)の “The Construction ‘AdjP – a(n) – noun’ in Present-day English Syntax” (Leuvense Bijdragen 91(3-4): 97-136)は、なかなか面白いです。理論的な議論もありますが、このような形容詞を前に置く語順が出てくる事例を多数、コーパスから収集して提示してくれています。

so, how, too, no などの後に起こる場合、たとえば so much larger a house (p. 115) のようによく知られた事例はもちろんですが、ややマイナーなパターンとして、not strong enough a base (p. 121)や、副詞の much や far がついた場合、たとえば much worse a problem (p. 122) なども挙げられています。他にも very, pretty, absolutely, positively, clearly などの intensifiers がついた場合、たとえば absolutely excellent a professor of theology (p. 123) なども挙げられています。

形容詞の前置が起こることが普通であるもの、オプショナルであるもの、とても頻度が低いけれども起こるもの、などに整理されています。

つまり論文の中であげられているものがいつもこの語順を取るわけではなく、むしろ極めてまれなものもありますので、実際の運用においては注意が必要です。コーパスを使って研究では、珍しい現象を拾い上げることができますが、常に頻度への意識が必要になります。(2022年)

英語の語順 — so good a film 再び

Rudnicka (2021)は、現代英語を中心にso good a film のような「so + 形容詞 + 名詞」構文についての論文です。OED Onlineの情報から、この構文の最も古い例は、中英語のSir Gawain and the Green Knightに遡ることを紹介し、その後、この論文の近年の動向に着目します。COHAの検索情報をもとに19世紀初頭から今日まで一貫して減少傾向を示していることを明らかにするのが、この論文の重要な論点となります。

また、後半ではジャンルによる違いにもかなりの紙幅が割かれています。spokenで頻度が少ないのは容易に想像できることですが、それ以外では、newspaperでの使用が少ないことが複数のコーパスデータにより証明されています。

一方、この構文がそもそも使用される意義については、複数の先行研究を紹介した後、

“If we add these facts together, we arrive at a situation in which the so-adj-a construction might have very likely been introduced to the written language as a hnady stylistic device which enables the writer to e.g., make a comment with a high pragmatic load.” (p. 55)

と結ばれています。

文献情報

Rudnicka, Karolina. 2021. “So-adj-a construction as a case of obsolescence in progress”, in Lost in Change: Causes and processes in the loss of grammatical elements and constructions, ed. Svenja Kranich and Ine Breban, pp. 51-73. Amsterdam: John Benjamins.

副詞節の位置

近年、語順と情報構造の関係について、にわかに関心が高まっています。一方で、語順が変われば情報の伝わり方がことなること、微妙な意味の差異が出てくることについてのさまざまな観察は、古くから行われていたことでもあります。

少し古い論文ですが、Bolinger (1952) の “Linear Modification” では、さまざまな事例を挙げながら、語順の違いと意味の関係が議論されています。そのうちの副詞節についての部分を引用してみたいと思います。Ifで導かれた条件文が、主節の前に来るか後ろに来るかで意味が異なってくることが述べられている部分です。

“These larger blocks evidence linear modification just as clearly as words do. Compare If you come I’ll help you with I’ll help you if you come; the first envisages more affirmatively the possibility of the person’s coming — has, that is to say, a meaning that goes a little beyond mere condition and may amount almost to an invitation; the second lends itself more readily to the implication ‘I’ll help you only if you come’ — selective contrast.” (p. 1126)

Bolinger らしい観察です。一方で、気持ちの伝わり方に関する微妙なニュアンスの違いなので、少しこわい感じもします。論文ではこの他にも、on the day following vs. on the following day など、さまざまな語順に関する議論が展開されています。

なお、中英語にはなりますが、副詞節が主節の前に生起しやすいか後ろに生起しやすいかについては、私も議論したことがあります。Iyeiri (2013) がそれを印刷したものです。この研究は、コーパスに基づく計量的なものです。(2022年)

書誌情報

  • Bolinger, Dwight L. 1952. “Linear Modification”. PMLA 67: 1117-44.
  • Iyeiri, Yoko. 2013. “The Positioning of Adverbial Clauses in the Paston Letters”, in Meaning in the History of English: Words and Texts in Context, ed. Andreas H. Jucker, Daniela Landert, Annina Seiler, & Nicole Studer-Joho, pp. 211-229. Amsterdam: John Benjamins.