後期近代英語を掘り下げる
末松信子 (著) 『ジェイン・オースティンの英語―その歴史・社会言語学的研究』
ジェイン・オースティンの英語をさまざまな角度から扱った『ジェイン・オースティンの英語 — その歴史・社会言語学的研究』が出版されました。献本をいただき、ありがとうございます。本の紹介をさせていただきます。
現代英語との隔たりが大きい古英語・中英語・初期近代英語に比べると、微妙な分析が必要ということもあり、後期近代英語の研究は、英語史研究では比較的最近になってさかんになってきた分野です。しかし、多くの作品を残した作家、長い作品を残した作家等も多いですから、分析に適した資料も多く、現代英語が形成されてくる過程を理解する上で、欠かすことのできない時代だと思います。本書は、ジェイン・オースティンの英語におけるヴァリエーションを扱った著書になります。(2017年)
秋元実治(著)『探偵小説の英語 — 後期近代英語の観点から』(開拓社、2020年)
開拓社から『探偵小説の英語 — 後期近代英語の観点から』が出版されました。献本をいただき、ありがとうございます。本の紹介をさせていただきます。
『Sherlock Holmesの英語』(開拓社、2017年)を出版した著者が、後期近代英語をさらに掘り下げることを目的として、同時代の8名の作家の英語を分析し、後期近代英語全般についての議論を行った著書になります。取り上げた作家は、
- Horace Walpole (1717-1797)
- Ann Radcliffe (1764-1823)
- Matthew Gregory Lewis (1775-1818)
- Mary Shelley (1797-1851)
- Wilkie Collins (1824-1889)
- Arthur Conan Doyle (1859-1930)
- Gilbert Keith Chesterton (1874-1936)
- Agatha Christie (1890-1976)
第1部でそれぞれの作家の英語について挿入句、動詞pray、再帰動詞、仮定法、受動態、構文的イディオムなどを記述した後、第2部では全体を通しての考察にになります。後期近代英語は現代英語の知識があると割合に簡単に読めてしまうのですが、言語学的に分析すると、まだまだ今日とは異なる性質が観察できるとことがわかります。たとえば、lestのあとで動詞がshouldを伴うのが確立してくるのは18世紀の中頃からで、それ以前には仮定法が使用されていた (p. 171)、現代英語では不可とされているdifficulty to Vの形が後期近代英語では観察できる (pp. 172-173)、動名詞に定冠詞が不可されているのに動詞的なふるまいをするthe having seenやthe uniting herなどの例が見られる (pp. 176-177) など、研究テーマのヒントになりそうな情報が多数含まれています。(2022年)