宮川創(著)『読めない文字に挑んだ人々 — ヒエログリフ解読1600年史』(山川出版社、2024年)
ヒエログリフをめぐる人々の歴史
『読めない文字に挑んだ人々 — ヒエログリフ解読1600年史』は、一般向けにわかりやすく書かれた著書ですが、やはり内容が内容だけに、開くととても難しい印象はありました。文字というのは不思議なもので、一旦読めるようになると、その文字によって伝えられる言語の方が優位になって、ほとんど意図することなく文字の向こう側にある情報の方に意識が向かいます。ところが、そうではない場合に、なんとも不可思議な模様のように見えてしまいます。
本書が扱うヒエログリフは、多くの人々にとっては現在でも模様のような文字ということになります。それだけに面白さを感じて、その解読に人生をかけるような人々も出てきたのでしょう。歴史を学んだときの記憶からはシャンポリオンの名前が浮かびますが、本書は、どれほど多くの人々の研究の成果の上にエジプト学が成り立っているかを詳しく解説してくれます。
第5章の「シャンポリオンによる解読」も大変関心をもって読みましたが、第6章の「シャンポリオン後のヒエログリフ研究 エジプト学の発展」で紹介されてる研究者の数々 — たとえば「発掘の成果をあげつつ文化財を保護する活動を始めた考古学者 マリエット(フランス)」など — の人生にも興味を持ちました。大戦などの時代背景の中で、存分に研究することができずに終わった人もあり、時代に抗うことができない人生のはかなさ、その人生をかけて難解なことに挑むことを選択する人々の力強さを感じました。