江利川春雄(著)『英語と日本人―挫折と希望の200年』(ちくま新書)

日本人が英語にどのように向き合ってきたか

私は、英語教育については必ずしも専門家とは言えないのですが、さまざまな形で現在まで英語教育に携わってきたという意味では、この分野についても、常に身近な問題としてかかわってきたように思います。

本書は、日本における広い意味での英語教育の歴史をわかりやすく解説してくれます。文明開化の頃から現在まで、また日本における英語教育の基礎をつくった歴史に残る人々のことまで、一度ゆっくり考えてみる機会を得るのには大変よい本だと思います。最初期の人たちの中には、日本の英語教育のために来日したC.T.Onionsや、古英語・中英語研究の基礎を作ることにも寄与した市河三喜なども含まれていて、英語学と英語教育が切り離すことのできない関係にあったこともよくわかります。

近年の日本における英語への自信の欠如や、教育方針がたびたび迷走してきたことなどについても記述が詳しいです。大学入試におけるスピーキングの扱いなどは、私にとっても他人ごとではない問題です。語学の問題が持ち上がるたびに、学校教育や入試がターゲットになりがちですが、近年の海外からの旅行客の増加にともなって、観光地では人々が自然に英語を話すようになっているのを見るにつけても、結局のところ、これまでは必要でなかったという面が大きいのではないかと思います。つまり社会の変化に人々は対応するのだということでしょう。

いよいよAIが普通に活用される時代が到来しました。これはまさに社会の変化です。語学との付き合い方も今後大きく変わっていくでしょう。人々が自分の母語を利用しながら、AIの力を借りて、自由にコミュニケーションできる時代が来ているように思います。もちろん専門家は必要ですが、中程度の語学力は、簡単に機械の方が凌駕してしまう時代の到来です。これをどのように私たちの生き方に活かしていくかが問われる時代が来ていると思います。そのような折に、英語と日本人のかかわりの200年を学びなおしておくという意味で、本書を読んでよかったと思います。