中世写本について

parchmentとvellum

いわゆる羊皮紙と呼ばれているものは、必ずしも羊とは限らず牛の皮なども使用されました。この土台となるものをparchmentと言ったり、vellumと言ったりしますが、これについてはCh. de Hamel (2018) のMaking Medieval Manuscripts (British Library) の説明が、分かりやすいです。まず、16世紀前半のWilliam Hormanから、”That stouffe that we wrytte upon: and is made of beestis skynnes: is somtyme called parchment somtyme velum”が引用されています。「動物の皮(beestis skynnes)は、ときにはparchmentと呼ばれ、ときにはvellumと呼ばれる」とはっきり書いてあります。両者を正確に見分けるのは、ほとんど不可能のようです。

実際にはどちらの用語を使うかについては、慣習としての側面が強く、”In the manuscripts department of the Bodleian Library in Oxford the house usage today is to refer to the material consistently as parchment; in the British Library in London, the same substance is standardly called vellum” (pp. 23-24) とde Hamelが述べるように、オックスフォードではparchment、大英図書館ではvellumが使用されているようです。

実際に写本を手に取ってみると、一枚一枚が結構分厚いものと紙のように薄いものがありますが、これについてもde Hamelに記述がありました。”The amount of scraping will depend on the fineness of the parchment being made. In the early monastic period of manuscript production parchment was often quite thick, but by the thirteenth century it was being planed away to an almost tissue thinness” (p. 33).

grain side (hair side)とflesh side

これも写本についてよく用いられる用語です。grain side (hair side)が毛が生えていた面で、反対側がflesh sideです。一般に外側のgrain sideの方が色が濃いはずです。本の形態にするときには、羊皮紙の場合も紙の場合も一定のルールにしたがって折りたたんで重ねていくので、grain sideはgrain sideと、hair sideはhair sideと向き合うようになっています。

Ch. de Hamel (2018) の説明によれば、”Hair side faces hair side, flesh side faces flesh side, and in paper manuscripts watermark side faces watermark side. This is quite extraordinarily consistent, and yet no medieval manuals of craftsmanship mention the fact. A break in the sequence of hair to hair, flesh to flesh, is so rare that it is often the first indication that a leaf is missing from the manuscript” (p. 46) ということです。ただし、hair sideを上にして折りたたむか、flesh sideを上にして折りたたむかは、地域や時代によって異なっていたようです。

写本の罫線

写本には罫線が書かれているもの、書かれていないものなどいろいろありますが、中世写本の場合は、一般に罫線が書かれている方が「きちんとした」写本です。現代の私たちの感覚とは少し異なっています。

この作業に使われた道具についてもde Hamel (2018)から引用してみると、”Until the twelfth century, most manuscripts were ruled in drypoint, that is, with blind lines scored with a stylus or back of the knife. Scribes ruled hard and sometimes cut through the parchment by mistake. … Around the late eleventh century we first find guide lines ruled in what looks like pencil: it could be graphite but is more likely to be metallic lead or even silver” (p. 56) ということで、ここでも時代による変化を見ることができます。ちなみに、改訂前の de Hamel (1992) のMedieval Craftsmen: Scribes and Illuminators (British Museum) では、pencilによる罫線について、12世紀の初めという記述がなされていました。少し時代が遡ったようです。

なお、線を引くためのガイドとして等間隔にページの端に小さな穴をあける作業がありますが、この部分は製本の過程で切り落とされていることも少なくありません。

Khan Academy の Making the Medieval Book

Khan AcademyのMaking the Medieval Bookは、入門者にもやさしく、内容も充実しています。羊皮紙を整えて、罫線を引き、文字を記入していく様子、書き損じた場合の対処、装飾に金箔を使用するときの方法、製本などのプロセスが、必要に応じて動画とともに解説されています。コースの内容は、以下のようになっています。

動画がないページにもたくさんの美しい画像が埋め込まれていますので、ぜひコース全体を通してみてください。

写本と白い手袋

動画やテレビの番組で中世写本を扱うときに白い手袋をしている人を見ることがあります。大切な写本傷つけてしまわないようにという配慮ですが、実際には、きれいに洗った自然の手で触る方が写本のためにもよく、手先の狂いも少ないことから好ましいようです。最近は、また素手で触ることを奨励するところが増えてきて、トレンドが変化してきているように思います。こちらのサイトもご参照ください。